「地域開発論A」等(吉村宗隆先生担当)では、産学連携の一環として、南海電鉄が取り組む社会課題について現場の「生の声」に学ぶ授業を実施しています。毎回、南海グループ企業の様々な部署の方にお越し頂いており、第5回(10月23日)は、グレーターなんば創造部の寺田成氏より「グレーターなんばのまちづくり」について、第6回(10月30日)は、サステナビリティ推進部の坂本里子氏より「サステナビリティの取組み」についてご講義がありました。
・「グレーターなんばのまちづくり」(第5回)
コロナ後にインバウンドの観光客が街中に戻るなか、昨年、南海なんば駅前の車道・タクシープールが「なんば広場」として生まれ変わりました。来年には、駅東側のなんさん通りの歩行者空間も拡張される計画です。車中心だったなんば駅周辺が、歩行者優先の空間に変貌しつつある背景には、官民協働によるまちづくりの構想「グレーターなんば」があります。
「グレーターなんば」は、来年の大阪・関西万博や大阪IR開業等2031年のなにわ筋線開業等を見据えて、なんば駅と新今宮・新世界をつなぐ南北軸を中心とした広域のなんばエリアに賑わいの回遊空間を創り、関空と直結した世界からの玄関口である「なんば」の魅力を高めることを目指し、まちづくりのビジョンとして“エンタメ”と“ステイ”の力で都市格を高めることを掲げています。
・「なんばエリアの活性化」(南海電鉄HP)
・「特集 「グレーターなんば」構想」(『南海グループ統合報告書2022』pp.19~22)
・「次代をつくるグレーターなんばビジョン「ENTAME-DIVER-CITY ~Meet!Eat!Beat! On NAMBA~」を策定」(南海電鉄HP)
・なにわ筋線開通の好機と通過リスク
利用者の視点からは気づきにくい点ですが、なにわ筋線開業によるなんば駅~大阪駅間の直結は、 南海電鉄にとって好機なだけではありません。関空を利用する観光客にとって始発/終着駅だったなんば駅 が、大阪駅と直結することで素通りされてしまう可能性が出てくるからです。さらに、難波の商圏人口 が減少傾向にあるという危機感も、“なんば駅にわざわざ訪れる人を増やすこと”、“なんばの滞在者・ 居住者を増やすこと”に向けたビジョンを描き、推進する背景にあります。
・地元発意によるまちづくり
壮大なスケールの「グレーターなんば」の構想、その始まりは、“放置自転車や旅行者の過密をなんと かしたい”という地元商店主の集まりを出発点としており、やがて行政や南海電鉄などの企業を含めた 街づくりへと発展しました。駅周辺のエリアマネジメントの先例として、グランフロント大阪や渋谷駅 前の開発等がありますが、これらの大企業主体の開発に対して、地元の商店街や大中小企業が連携し た、既成市街地での開発を伴わないまちづくりであることが特徴と言えます。
昨年、南海電鉄が策定した「グレーターなんばビジョン」では、なんばを訪れる人・働く人・暮らす人 に加えて、なんばで自らのアイデアやスキルを実践する人、〈担う人〉の存在が、ビジョンの重要人物 になると位置付けられています。芸能の本場であるなんばという土地で、地域に根差した多様な主体が 連携して想いを形にしつつある「グレーターなんば」であるからこそ、まちの魅力を共に高める担い 手・まちを舞台にしたプレイヤーを育てたい・・・そんな思いの伝わる講義でした
・「なんば広場とは」(なんばひろば改造計画HP)
・「“ちょけ”から始まる次世代のエンタメクリエイターインレジデンスプログラム 「Chokett」始動」(南海電鉄HP)
・「南海におけるサステナビリティへの取組み」(第6回)
民間企業にサステナビリティ(持続可能性)が問われる場面といえば、温室効果ガスの削減に代表されるような自然環境の持続可能性への配慮が連想されますが、近年では、こうした環境(Environment)に加えて、地域社会への貢献や雇用・社内環境などの社会(Social)、さらに取引の透明性や情報開示などのガバナンス・企業統治(Governance)も含めたESG(環境、社会、ガバナンス)への配慮が求められており、ESGに取り組む企業に投資するESG投資の市場も拡大しています。南海電鉄もサステナビリティ方針に基づき7つの重要課題(マテリアリティ)を特定したうえで、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)それぞれに具体的な取り組みテーマを設定しています。
・「サステナビリティ方針、マテリアリティ、推進体制」(南海電鉄H P)
・環境(Environment)、社会(Social)
環境のサステナビリティについて、2050年にCO2排出量実質ゼロを目標としており、省エネ車両の導入や太陽光発電の利用に注力しています。そのほか、生物多様性保全の観点を含め、関空の土砂採取跡地の「多奈川ビオトープ」での環境保全活動、都心にあって貴重な緑地となっているなんばパークスの屋上公園では、人だけでなく鳥や虫にとっても憩いの場とする活動に長年取り組んでいます。
地域社会への貢献や雇用・社内環境などの社会(Social)に関しては、なんばエリアの活性化や泉北ニュータウンの再生、管理職・新規採用における女性比率の向上などがテーマとして挙げられています。
・「南海グループ統合報告書」
ESGの3つ目、ガバナンス・企業統治(Governance)のテーマであるステークホルダーとのコミュニケーションについては、HPで公開されている「南海グループ統合報告書」として結実しています。ここには、企業理念、トップ・メッセージ、ESGの取り組みの現状など南海グループの現在と未来が詰まっており、収益などの財務情報とCO2排出量や女性社員採用者数といった非財務情報を組み合わせ、南海グループが中長期的な企業価値をどのように創出していくのかを報告されています。
これまでの授業の中で何度か学生から挙がった質問―“社会課題の解決”と“企業利益の追求”をどう両立させるか?―に対する考え、長期的なビジョンとともに示された方向性がこの報告書には込められています。例えば、大阪のなんばで、まちの将来ビジョンを設けて、地域の関係者と力をあわせ、より魅力的なまちにしていこうと活発に取り組んでいることなどが掲載されています。
統合報告書は、投資家や株主への情報開示というだけではなく、南海沿線で生活する私たちにとっても、南海グループの描く未来を共に思い描ける楽しさがあります。サステナビリティへの理解を深めるためにも、ぜひ読んでみたいと感じる講義でした。
「日経統合報告書アワード」(2023年の報告書は2年連続で優秀賞を受賞)